医療施設におけるBCPの現状

*病院BCPの策定状況

医療機関におけるBCPは、災害時の診療機能の低下を抑えつつ早期回復につなげるための準備体制や方策をまとめた計画です。

災害拠点病院では、16年の熊本地震における医療活動の検証を踏まえ、17年度よりBCPの策定が義務化されました。

18年11月~19年3月に全国の病院8372病院を対象にBCPの策定状況調査が実施され、7294病院(87.1%)が回答しました。調査結果によると、昨年12月1日時点でBCPを「策定なし」と回答した割合は、災害拠点病院では28.8%、救命救急センターでは33.3%、周産期母子医療センターでは69.1%、それ以外の病院では79.9%で、全体では75.0%でした。

厚労省医政局の担当官が「なかなかショッキングなデータ」とコメントしているように、4分の3の病院がBCPを策定していないという、危機管理の低さが浮き彫りになる結果となりました。

なお、未回答または「策定なし」と回答した245の災害拠点病院に対し、猶予期間が満了した19年4月1日時点の策定状況を再調査したところ、241病院が策定済みと回答しました。残りの3病院は8月までに策定予定、1つの病院は災害拠点病院の指定を返上予定とのことです。

*BCP策定が浸透しない理由

BCPの策定が浸透しない理由はいくつかありますが、主なものを上げるとすれば次のようなことが考えられます。

① 重要性、必要性を感じない

② 法律、規則などの要請がない

③ 策定したくてもノウハウ、スキルがない

④ 策定する時間、人員を確保できない

と言ったところでしょうか。

以下に詳しくみていきましょう。

 

① 重要性、必要性を感じない

身近で災害などを経験していないこと、自治体や諸団体から明快な説明が周知されていないことにより、必要性を感じていないことが考えられます。

これまで直面したことのない災害を想定するのは非常に困難なことかもしれません。しかし、最近は様々な災害対応のノウハウ、体験談が共有されています。それをもとにご自身の施設に適したより現実的なBCPの策定は可能です。

② 法律、規則などの要請がない

医薬品の安全管理マニュアルのように、義務付けられればもちろん策定しなければなりませんが、法律・規則化されていなくても、今災害が発生したらご自身の施設はどんな役割を果たせるかを改めて考えてみることが大切です。

法律・規則化の有無に関係なくBCPは必要になってきます。

③ 策定したくてもノウハウ、スキルがない

現在、様々なBCP策定ガイドラインなどのツールがありますが、これを参考に策定しようと思ってもなかなか現実的ではないようです。

理由としては、与えられた定型フォーマットのままではBCPとして機能しないという事実があるからです。各々の施設で状況は全く異なります。たとえば施設の場所が、海沿い、川の近く、住宅密集地、ビルの中…、上げればきりがないです。定型フォーマットではどうしてもすべての状況に対処できないのです。オリジナルの情報を踏まえた対応を盛り込まなければ、いざという時に活用できるBCPにならないのです。

④ 策定する時間、人員を確保できない

日々の業務により、どうしても「危機管理」にかける時間は削られてしまいます。

しかし、いざという時に慌てないためには「事前対応」が欠かせません。

災害が発生してからでは遅いのです。患者、職員、地域医療を守るためにも、BCP策定は必須です。

「未来を守る」ために、今考えてみませんか?きっと時間を作れるはずです。

*BCP策定医療機関を増やすために

・負担の軽減

通常の業務に追われる日々の中で、BCPの策定を考えることは大きな負担となります。

各部門の責任者を招集し、現状の業務の洗い出しをしていかなければならないでしょう。そのような時間的な負担に加え、ライフラインの確保のための設備投資や、備品の買い足しなどの経済的な負担も発生します。医療機関は医療機器が高額なため、すでに多額の投資を行っている中、BCPのために追加の投資を行うことに躊躇するのも当然のことでしょう。

一般企業のようにBCP策定に対して助成金があればそれを活用すれば良いのですが、今のところ

医療機関は適応外です。

今後予想されることとすれば、BCP策定済みならば「診療報酬の点数が取れる」ことでしょうか。

また、各自治体で独自の支援を行っているところもありますので、ご施設のある自治体に問い合わせてみることをお勧めします。

 

・当事者意識を持つ

一般病院、クリニック、薬局などの医療機関において、BCP対策を取って発災後に診療を提供する意識を持てるかといえば、少しハードルが高いかもしれません。

しかし、災害拠点病院の数は限られていますし、その他の大規模病院も、被害状況によっては全く機能しなくなる可能性が十分に考えられます。ともすれば、医療提供能力が低下しながら医療需要が増えるという非常に厳しい事態が予想されるのです。

そこで、風邪程度の症状や軽症の患者を、クリニックが受け皿になることで、災害拠点病院はより緊急度の高い患者に対応することが可能となります。一部の医療機関に頼るのでなく、地域全体で非常時の医療提供を支えられるよう、規模に関わらず、「我々が地域を守る!」という当事者意識を持つことが非常に大事となってきます。