事業案内
BCPは初めから完璧なものを作り上げることは不可能と言われています。下図のフローのように常に見直しを行い、自分たちが運用しやすいBCPを作り上げていく必要があるのです。
しかし、BCPは作って終わりではありません。綿密に作り上げたBCPでも、想定外のこと(被害、周辺状況、社会情勢など)が起これば、機能しなくなることも考えられます。日頃からに「訓練→見直し」を行い、常に最新の状態にしておかなくてはなりません。
実際に災害が起こった時には、施設内はどのような状況になるのでしょうか?
病院を例に取り、厚生労働省が出している「医療機関BCPガイドライン」を参考に見ていきましょう。
① 指揮命令系統の混乱
発災時には医療現場は大混乱に陥ります。指揮命令系統が不明確になり、各担当者が独自の判断で行動することで混乱を招いてしまうのです。
② 建物の損壊と設備の破損による使用制限
耐震性が高い建物であっても、予想以上の災害により建物が損壊することもあります。また、医療機器や精密機器なども破損してしまい、使える設備が限られてしまう可能性があります。
③ インフラ崩壊
発災時にまず確認したいのは、電気と水です。
病院の場合、停電により非常用発電機による供給に切り替えたものの、電力の供給先を手術室などに制限したため、その他の災害対応は使える電気に制限がある中で行わなければならないこともあります。
また、断水になる可能性もあり、受水槽にある限られた水で飲料水や医療で使用する水を賄う必要が出てくることも出てきます。
④ 人員、医療資器材の不足
公共交通機関の運休や道路の寸断などにより、職員が出勤できないことが考えられます。その場合、当日に勤務していた職員と近隣に住んでいた職員のみで対応しなければならない場合もあります。
また、道路の寸断により医薬品や医療資器材の供給を受けられないことも想定されます。
⑤ 帰宅困難者の発生
職員のみならず、外来患者、お見舞いなどの来客者が帰宅困難となり、病院内に留まってしまうことが考えられます。
⑥ 通信手段断絶による情報不足
通常の電話やFAXは使用不能に。携帯電話も電波渋滞になり繋がりにくくなります。比較的繋がりやすいと言われているインターネットもアンテナ自体の損壊により通信不可になることも考えられます。
一般的なBCP策定手順は以下のようなステップです。
BCPの本質は、「何を」「いつまでに」「どの程度復旧させるか」という目標レベルを設定することです。
例)
その上で最も大切なことは、「事前準備」です。
ここでは事前準備について詳しく解説していきます。
事前準備①:BCPの方針
1番大事なことは、施設としての方針を決めることです。
方針が決まっていれば、災害が起きても職員はぶれることなく対応することができます。
病院を例にとると、
1.自分、患者さんの身の安全を確保
2.近くにいる人に怪我はないか、身近に危険はないかを確認
3.責任者に現状を報告
4.自分の部署の状況を把握
5.BCPに則り、優先業務を行う
部署ごとの優先業務は各々異なってくるので、平常時から部署ごとで方針を決めておくとよりスピーディーに動くことが可能となります。
事前準備②:現状の把握
BCPを策定するにあたっては、自らの施設が災害に対してどの程度備えができているのかを把握する必要があります。
(1)指揮命令系統
・発災時に現状を誰に報告する?
・災害対策本部の設置基準は?
このようなことは、全員が理解していなければなりません。
また、責任者不在時に誰が支持を出すかといった、非常時の指揮命令系統も整えておく必要があります。
・リーダー不在時における指示出し担当者の決定
・自己判断を許可する範囲の決定
といったことも確認することが求められます。
(2)人員の確保状況
まずは、通常時の配置要因の確認が必須です。
通常時において、平日昼間、平日夜間、休日昼間、休日夜間の医師、看護師、薬剤師、検査技師等がどの程度配置されているかを確認します。
次に緊急時に集まることが可能な職員数について、発災から1時間後、3時間後、6時間後といったように時間別に確認します。
この時、インフラの状況によって集まることのできる時間が変わってくるので、目安として自宅からの距離で考える必要があります。
また、病院職員以外の清掃、保安要員などの委託職員の状況も把握できると尚良いです。
(3)場所や設備、備品の確保状況
災害時には診断スペースが不足することが予測されます。その際にはどこで患者対応を行うのか、そのスペースも考慮した場合には、総計で何人くらいの患者を収容することができるのか、などについて調べる必要があります。
次に設備や備品の状況についても調査します。災害時には電気、ガス、水道などのライフラインが止まることがあるかもしれませんが、その際のバックアップ状況はどうなっているのか、医薬品や医療資機材についてはどれくらいの余裕が普段からあるのかを把握します。
(4)搬送手段の確保状況
道路状況などの周辺状況を想定し、患者や物品の搬送手段について確認します。
(5)インフラ状況
インフラの状況は①建物、設備の耐震化の状況、②ライフラインの状況、③通信手段の状況を把握しておくことが大事です。
① 建物、設備の耐震化の状況
・施設内のすべての建物における免振、耐震状況
・受変電設備、受水槽、ガス配管の耐震性
・エレベーター内の閉じ込め防止、自動診断・リスタート機能の整備状況
・施設内に設置されている医療機器、家具などの転倒防止状況
② ライフラインの状況
電気、水道、ガスなどのライフラインのバックアップ状況や燃料等の備蓄状況について確認します。また、バックアップ燃料等が不足した場合の供給体制や供給可能な量についても確認しておいて下さい。
③ 通信手段の状況
発災時は携帯電話はほぼ通じないと思っておいた方がよいでしょう。インターネットも比較的繋がりやすいとはいえ、アンテナ等の倒壊により受信できない可能性もあります。
衛星電話など、災害に強い通信手段を採用することも検討されます。
また、病院やクリニックにおいては、電子カルテが使用できない場合も想定されます。データの保管、バックアップ状況なども確認する必要があります。
事前準備③:被害の想定
地震、台風、サイバーテロなど、医療施設がBCPを活用するような災害や事故などは多種多様であり、
何が発生するのかを推測することは今日では難しくなっています。
ある災害などによって、街全体でどれくらいの被害が想定され、時間の経過とともに負傷者や病院内の状況はどのように変わっていき、病院内の設備で機能停止するものは何か、などについて被害想定していきます。
病院を例に取り解説していきます。
(1)病院周辺地域のライフライン調査
都道府県の地域防災計画の被害想定を参考に、院周辺のハザードマップを作製する。
(2)病院のライフライン調査
地域防災計画の被害想定から病院周辺地域の各ライフラインの被害状況を把握する。
(3)急性期来院傷病者数の予測
発災後15~30分は歩行可能な軽症傷病者が、その後30~60分の間に重症者・中等症者が多数来院されることが予想されます。傷病者は最も近い医療施設を受診することが過去の災害で確認されているので、病院から60分圏内(約5km)の人的被害状況を地域防災計画から調べましょう。
周辺の人的被害状況が把握できたら、受入傷病者数の予測です。
受入傷病者数は、地域の災害拠点病院、二次救急医療機関を考慮し、各施設で検討して下さい。
(4)来院重傷者の傷病内容を推測
過去の災害時のデータを参考に傷病者数を予測します。
さらに、クラッシュ症候群、その他の外因による集中治療を要すると思われる傷病者の予測も必要です。
事前準備④:通常業務の整理
災害時に優先して取り組む業務を浮かび上がらせるためには、部門ごとに通常時に実施している
業務を列挙し、各業務内容とその実施のために必要な資源を整理する必要があります。
それと並行して、現状や被害想定を踏まえながら、通常業務の部門ではなく災害時に組織される部門ごとに災害時応急対策業務を列挙し、各業務内容とその実施のために必要な資源についても整理します。
事前準備⑤:優先業務の抽出
各部門で検討した通常業務および災害応急対策業務等を統合します。そして関連業務の並び変えを行
い、優先する業務を設定します。業務の選定にあたっては、その病院の役割(救急指定病院など)、日
頃提供している医療サービス(外科、産科、人工透析など)も勘案して実施していきましょう。
ここまで来たら、あとはまとめるだけです。
優先業務をいつまでに、どのレベルまで復旧させるのか目標を設定すればBCPの出来上がりです。